「うーん、どこに行っちゃったのかしら…」 ところ変わって学園の食堂です。オバちゃんが困った顔で呟きました。 ついさっき帰って来た忍術学園の生徒や先生たちのご飯を作るのに、さんの姿が見えないのです。 さんのお仕事のひとつでもっとも重要なのがこの食堂のオバちゃんの手伝いなのですが、何故か今日に限って時間になってもさんが食堂に現れません。 もし休むのなら何かしらちゃんとさんから連絡が事前に入るはずなのにそれすらもないのです。 チキチキ救出大作戦! その2 あの子は一体今いずこ? 「おやぁ、オバちゃんどうかしたんです?」 一足先に食堂で休憩している山田先生がお茶をすすりながら尋ねました。 「ああ、それがねェ…」 オバちゃんが山田先生に答えようとしたところへ、どやどやと先生や一年は組の生徒達、そして上級生達が現われました。 大半の人の目的は、愛しのさんへ「ただいま」を言って「お帰りなさい」とねぎらってもらうことだったりするのです。 そして一年は組のよい子たちはさんのお気に入りでした。よい子たちが食堂へ訪れると、さんはふんわりと笑って洋菓子を焼いてくれるのです。 「「「「「「「「「「「わぁーい、さんただいまぁ〜」」」」」」」」」」」 は組のよい子達の大きな声にも、さんは姿を現しません。 それもそうです、つい一刻ほど前にさんはドクタケのみなさんに攫われてしまったのですから。 とはいえ、誰もそんなことを知りません。 「オバちゃん、さんは具合でも悪いんですか?」 といささかしょんぼりと土井先生が尋ねました。何を隠そう、この人はさんに初めて会ったとき謎の発作を起こしたことがあるぐらいさんにゾッコンという人です。 「そうそう、それがねぇ…」 とオバちゃんが再び口を開いたとき、 「ーーーーっ!! 俺が今帰ったぞぉぉぉぉ!!」 まるでさんが自分の彼女のような呼び方で食堂に飛び込んできたのは六年生の潮江文次郎です。 その背後にはさらさらストレートヘアアンケートトップの立花仙蔵が、「私のさんを所有物のように扱うな、まったく」と不機嫌そうに続き、「仙蔵もさんに所有格つけてるじゃないか…」とちょっと面白くない顔をした善法寺伊作も現われました。 「さぁ〜〜んたっだいまー!!」 七松小平太はいけいけどんどんと食堂を走りながらぐるぐるまわり、中在家長次は無言・無表情だけれどどこか嬉しそうな雰囲気で入り口の傍に佇んでいます。 食満留三郎は文次郎や小平太に少しイライラした様子でしたが、さんがいないことに首を捻りながら「どこか出かけたんだろうか」と伊作に話しかけていました。 さてこれだけでも相当な人数がいますが、尚も収拾がつかなくなりそうな事に、更に五年生の二人がひょっこり現われました。 とは言え、六年生の濃ゆい面子に比べればダントツに穏やかなのですが。 「鉢屋、今朝さんと何か話したりしなかったかい?」 不破雷蔵の問いに、全く同じ顔をした鉢屋三郎は 「うーん、話したけど特にこれと言って出かけるとかそんなのは聞いてないな」 今朝のやり取りを思い出しながら答えます。 「ねぇオバちゃん、さんどこ行ったの?」 乱太郎がオバちゃんの割烹着を引きます。ちょっと圧倒されていたオバちゃん(多分一番の常識人)は、あぁあぁ、と乱太郎に目をやりました。 何だか不安そうな顔をしています。さんを心底案じているのです。 見れば、しんべヱやきり丸、―――は組のよい子達がオバちゃんの傍でオバちゃんが答えるのを心配そうに待っているようでした。 ――まぁ、考えてみれば。過去二回ほど喋ろうとする度に邪魔が入ってしまったわけですが。 「そうそう、ちゃんがねぇ……」 「こんにちはお久しぶりです、さ…、……父上」 三度邪魔が入りました。「二度あることは三度ある」とはよく言ったものです。「三度目の正直」よりよっぽど実現率が高いのでしょうか。 ちなみに訪れたのはフリーの売れっ子忍者であり、山田先生の息子である利吉さんでした。 何気に自分の父親よりさんへの挨拶を優先しかけているあたり、この人もさんにゾッコンさんのようです。 その利吉さんの後ろに、小松田くんがくっついて食堂に入ってきました。 小松田くんが書類の束を抱えて利吉さんに筆を突きつけているあたり、どうやら利吉さんはサインを書く時間も惜しんで食堂へと直行してきたようです。 ここにきて食堂内は夕食時でもないのにざわざわと賑やかになってきました。最早誰が何を話しているのかが誰もわからなくなっています。 ただ、誰もがただ一人の事について口を開いているのだけは間違いないのでした。 さんどこいったのかなぁ(複数名)、この俺が帰ってきたのにの奴めどこをほっつき歩いているんだ(文次郎)、などなどなど。 だからそれについて何度も話そうとしているのに、いいタイミングで邪魔してくれるのはどこのどいつらだい! オバちゃんのイライラボルテージはそろそろゲージMAXに達しようとしていました。だからと言って何が起こるわけではないのですが。 「ちゃんならさっき出かけましたよ〜」 と、食堂の混乱を一言で収めたのは小松田くんでした。全員の視線が一気に小松田くんに集まります。 「出かけた? ……どこに?」 すぐ傍にいた利吉さんが少し焦ったように尋ねました。 えーとえーと、と手元の外出届の束を忙しなくめくりますが、小松田くんは中々さんの外出届を見つけられないようです。 たまりかねた土井先生が「貸してごらん」と優しく……しかしちょっと乱暴に書類を引ったくり、しばらく目を通していました。 他の人たちは土井先生の後ろから覗き見しています。小松田くんは小松田くんで、さんが『出かけた』時のことを思い出そうとうんうん唸っておりました。 「む、あったぞ」 ""の文字を見つけ、土井先生が声をあげました。 「えぇ〜と、何々……」 氏名 行き先 ドクタケ城近くの砦の地下牢 帰宅時間 不明。帰ってこないかもわからんね ―――代筆者 ドクタケ忍者隊・雨鬼 『………』 「ああ、そうそう!」 何とも言えない珍妙な沈黙の中、小松田くんがパッと顔を輝かせました。 「ちゃん、出かけるときにドクタケ城の皆さんに簀巻きにされて担がれてたんでドクタケ忍者の方に代筆を頼んだんですよ! やぁ思い出した思い出した」 ……………… 『なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?』 全員が大絶叫。 「す、す、簀巻きって小松田くん、アンタそりゃあ……!!!」 山田先生がワナワナと口を震わせ、顔を真っ青にして叫びました。 「ちゃん誘拐されてんじゃないのよぉぉぉぉぉッ!!」 ―――ようやくここに「さん誘拐拉致事件」が発覚したのでした。 →また続いてみたり。 ←一話に戻ってみる。 ここに来て小松田くんの扱いの悪さに一頻り苦笑。 うまく片付くといいんだけど(;´-`) |