「……っ、り、利吉さん…!」 本当に小さな声でしたが、さんは呼びました。 最後の最後に会いたかった、一番―――大切な人の名を。 チキチキ救出大作戦! その4のB 山田利吉編 「ぬわははは、今頃助けを呼ぶか小娘! だがもう遅いわ!」 刀を掲げたまま勝ち誇ったようにあざ笑う八方斎。その背後に人影が現われたのですが、 目をぎゅっと閉じていたさんはともかく、プロの忍者(しかも忍者隊首領です)であるはずの八方斎は気がつきません。 ゴガッ 「ぬごぉおおおお!!」 鈍い音と、八方斎の悲鳴があがったのはほぼ同時の事でした。 何事か、と訝しんださんがそぉっと目を開けると、目の前に立っていたはずの八方斎が真横にすっ飛んで柱か何かに頭をぶつけたらしく目を回しています。 (ぇええ…?) 何であんなところで倒れてんのあの人…とさんの頭の上に、ハテナマークがちょんちょんちょん! と連続で浮かんでは消えていきましたが、 次に八方斎が元居た場所…即ちさんの真正面に視線を戻したときにさんの疑問は綺麗に晴れました。 ……が、今度は別のハテナが現われる羽目になりました。 さっき八方斎に殴られて気絶していたはずのドクタケ忍者風鬼が、何故か武術の構えを取っていたのです。 どうやら、八方斎をノックアウトしたのは風鬼のキックだったようですが、何でまた部下が上司を攻撃したのでしょう。 ……さっき殴られた仕返しかしら。きっとそうだ、そうに違いあるまい! おおこれぞ下克上か!! ……何か違うな。 …本気でそんな結論に達しようとしていたさんでした。 と、風鬼がス、と手を差し伸べてきたのでぽかんとその手を見つめていると、 「遅くなりました、…お怪我は?」 明らかに風鬼のものではない、だけど聞いたことのある声が目の前の風鬼から発せられて、さんはギョッとしました。 まるでメンチ切ってるヤンキーの如く(何だかおかしな気もしますが)、じろじろと風鬼を眺め倒していると、 「……私ですよ、さん」 とその人は気恥ずかしげにため息をついてから風鬼の顔を破き、さんの視線にあわせるように片膝をつきました。 その『風鬼』の顔を見て、 「うそ、……利吉さん!?」 ヤンキーから一転して小さな子供のように目を大きくします。 そんなさんに優しい笑顔を向けたのは、ドクタケの制服に身を包んだ、フリーの売れっ子忍者――山田利吉さんその人でした。 思ってもないところでの邂逅に、さんの頭の中はふたたびハテナの洪水に見舞われてしまいました。 「何故に利吉さんが風鬼さんに化けていたのか。それ以前に、何でドクタケ城の砦にいたのか。 お仕事中なのかな、でもさっき遅くなりましたって……まさか、わたしを助けに来てくれたのかしら? ……って、そんなわけないじゃなーい!」 ちょっと錯乱気味だったようで、全てが声に出ていることすらさんは気づいていません。 唖然とする利吉さんの前で、さんによる謎の激白ショーは更に加熱していきます。 「でも聞き間違いじゃないんなら…わたしにもまだ可能性あるって事かな………でもでもでも、あんなにかっこよくて優しいんだもの、それに似合いすぎな優しい美人な彼女さんがいる筈よねっ、そうよ、期待するだけ傷つくに決まってるんだから!」 ピーチクパーチク、かくかくしかじかこれこれうまうま。 さんの快進撃(?)はとどまることを知りません。よくよく聞いたら爆弾投下しているような発言がポンポンとさんから飛び出していましたが、 「でも利吉さんの事が好きな気持ちは誰にも負けなぎっふゃ!?」 間違って舌を噛んだ事で、さんの心情暴露ショーは唐突に終わりを迎えたのでした。「い、痛い…」と涙目になったところで、ハタ、と気がつきます。 (わ、わたし、今全部しゃべってた……!?) どうしよう、とさんは恥ずかしさのあまり青くなったり赤くなったりしながら両手で頬を抑えました。もうまともに利吉さんの顔も見れません。 胸にしまっておくつもりだった「利吉さんのことが好き」なんて言葉を、錯乱していたとは言え勢いで言ってしまったのです。 しかも、告白でもなんでもなくただの独り言としてまくし立てていたのをよりにもよって助けに来てくれた利吉さんに聞かせてしまったわけですから。 一方の利吉さんは、さんの口から飛び出た言葉の数々が自分が夢見ていたものとぴったり同ものだったせいか、ほんのりと顔を赤くして頭を掻いていました。 まさか、さんが私のことを好いていてくれたなんて…! と内心は喜びのあまり天にも昇る勢いなのですが、変なところで忍者の習性というか、表情に表れたのは最小限の照れだけだったのは天晴れと言ってもいいのかも知れません。 と、 「う、うぅう……」 地獄の底を這いずり回っているような低い唸り声に、ふたりを包むパッションカラーなムードが一瞬で緊迫したものに様変わりしました。 さんの暴走ですっかり忘れていましたが、ここはまだドクタケの砦のど真ん中。すぐ傍では八方斎が側頭部におおきなたんこぶを拵えて目を回しています。 折角だけどラブコメやってる場合じゃなかったんだっけか、と利吉さんは立ち上がってさんの腕を引きました。 「……さん」 「はっ、はい!?」 「まずはここから出ましょう。……その後に、どうか私の話を聞いてはくれませんか」 腕利きの忍者である利吉さんにとって、女性を一人連れていようとも砦からの脱出はそれほど難しいものではないようでした。 あれよあれよと言う間に、さんと利吉さんは砦を離れることが出来、今は二人で忍術学園へ向かう道をゆっくり進んでおりました。 さんは二度三度、手を引いてくれる利吉さんの顔色を窺っていましたが、当の利吉さんは凛々しく唇を引き結んで前ばかりを見つめています。 実際のところ、そうでもしてないと顔が緩んで仕方がない利吉さんだったのですが、それを知る由もないさんの頭の中は利吉さんの話って何だろう…、とそのことだけが渦巻いていました。 (ああわたしは絶対に振られてしまうんだわ)としか思えなかったさんは、知らず悲しげに笑います。 と、利吉さんがぴたりと足を止めました。自然にさんも足を止めることになり、何かあったのだろうかとさんは利吉さんを仰ぎ見ました。 「その」 ぽつりと利吉さんは口を開きました。これがきっと利吉さんの話なんだろうと直感したさんは、知らずに強張ります。 最後の審判を受けるつもりで、さんはただただじっと、利吉さんの言葉の続きを待ちました。例えこの場で振られても、利吉さんを困らせるまいと硬く決意しながら。 だからこそ、弾かれたようにさんを抱きしめ 「わっ、私もさんのことが好きです!」 顔を真っ赤にした利吉さんの、叫ぶような告白に 「……は?」 抱きしめられながらも思わず目を点にして聞き返してしまったさんでした。 その後……ドクタケ城では、稗田八方斎の猛烈な反対を押し切った形でさんファンクラブなるものが発足し、忍術学園では幸せそうに笑うさんと、そんな彼女に寄り添われて酷く照れくさそうな利吉さんを見て (あの仕事中毒の朴念仁にもやっと春が来おったか)とにんまりと笑う山田先生がいたそうです。 めでたしめでたし。 ←選択肢に戻ってみる。 わたしは利吉さんを何だと思っているのか。 編集しながらそればっかりしか頭にない自分って。 利吉さんって対好きな女性となると、 ・果てしなくキザなことをする ・いっぱいいっぱいになって突拍子もない事を言うかやる この二択のどっちかじゃないかと勝手に思ってます。(今回は後者です) あと基本的に女性に弱い筈だ……!! |