「……っ、土井先生…!」

本当に小さな声でしたが、さんは呼びました。
最後の最後に会いたかった、一番―――大切な人の名を。











チキチキ救出大作戦!
その4のA 土井先生編












その瞬間です。


カッカカカカカッ!!

「あだだだだだっだっあだぁっ!?」

小気味よい音と八方斎の痛がる声が連続で響きました。振りかざされた刀も八方斎の脇に落ち、その刀の落ちた音で目を開けたさんは一体何が起き たのか皆目見当もつきません。
八方斎に目をやった途端、「あ」と声をあげました。

「チョーク……」

八方斎を痛めつけたと思しきそれは―――何と白いチョークだったのです。何本かは砕けて粉になり辺りを漂っていますが、それは間違いなくチョークでした。
驚いて思わず呟いた直後、さんの肩にそっと暖かい手が置かれました。

さん!!」

ご無事でしたか、といくらか安堵したようなその声は、会いたくて会いたくて最後に名前を呼んだその人――土井先生のものでした。

「……土井、せんせぇ……」

助けに来てくれた、土井先生が助けに来てくれた……!!

そのことがとても嬉しくて幸せで、さんの胸はそれだけでいっぱいになりました。
目に映る全てのものがゆらゆらと滲み出し、さんは慌てて着物の袖で涙 を拭います。
土井先生は、そんなさんの様子を見て肩を優しく抱き寄せると、抜き放った刀を八方斎に向けて突きつけました。

さんは返してもらうぞ、稗田八方斎!」
「ぬぅぅ、小癪なぁっ!!」

激昂した八方斎が取り落とした刀を拾い上げて正眼の構えを取り、土井先生と睨みあいになりました。
ず、…ず、…ず、…と畳が足で擦れる音がして、二人は距離を縮めることなくゆっくりと円を描いています。

「(さん、しっかり捕まっていて下さい)」
「(は、はいっ)」

土井先生の小声の指示に、さんはしっかりと先生の忍び装束を掴みます。
刀を構えたままの土井先生にぐっ、と強く抱きしめられたかと思うと、先生の手は忍び装束から丸い何かを引っ張り出しました。
そしてどうやったのかその丸い何かに火をつけてすぐに八方斎にめがけて投げつけました。

「け、煙玉かっ…げふぉっゲホ、ゴホゴホッ」

何を投げてきたのか、それに八方斎が気がついたときにはその視界は朦々とした煙に包まれ、あっという間に土井先生とさんの姿を隠してしまったのです。

その隙に、刀を投げ捨てた土井先生はさんをしっかり抱え上げ走り出しました。
驚いたさんでしたが、ここで声をあげてはなるまいときゅううっと目をつぶって土井先生にしがみ付きます。
流石忍者です。さん一人抱えているのに、土井先生の足は恐ろしいスピードで砦の敷地内を突っ切り、塀を駆け登り、あっという間に眼下に広がるお堀の水に飛び込みます。
ところが困ったことにさんは泳げません。飛び降りる恐怖と溺れてしまいそうな不安に「ひゃぎゃややややややわぁああっ!!」と、とうとう悲鳴をあげましたが着水の寸前、




「大丈夫、絶対に大丈夫ですから」




という、優しい囁きを聞いた気がしました。


バッシャァアアン!! と大きな水音が響き、次の瞬間さんは土井先生にしっかり抱きかかえられたまま水面に顔を出しました。
めまぐるしく変化していた光景についていけず、さんはしばらくくるくると目を回していましたが、笑顔の土井先生と視線がかち合って、そこで初めて助かったのだと強く強く実感しました。

「ど、土井先生いぃぃ〜〜〜!!」

感極まってしまったさんの目に、さきほど止まったばかりの涙が再び浮かびだし、ついにさんはわんわんと泣き出してしまいました。
突然の涙に土井先生は少しわたわたしていましたが、やがてさんの背中に優しく腕を回し、

「怖かったね…、もう大丈夫だ」

それから、きゅう、と力を込めて抱きしめます。
その腕の力強さに、涙をいっぱいに溜めたさんが頬を染めてじぃっと土井先生を見つめます。
土井先生も、その潤んだ視線に引き寄せられるようにすす、と顔を近づけていきました。



、さん……」

「土井せんせぇ…」



……さんが何かを待つように瞳を閉じ、土井先生の手がさんの頭を柔らかく支え、








そうして、二人の影がそっと重なる……その直前でした。









「「「「「「「「「「「わぁあぁあぁあああぁぁあぁぁぁあぁあぁああぁぁあぁ」」」」」」」」」」」


どぼ、どぼどぼぼどどぼどぼぉぉぉん!!!


二人のすぐ周りに、水柱がきっかり11個(そのうち一つはやたら大きな水柱でした)が立ち上り、触れあう寸前だった二人は恐るべき勢いで完全に離れました。

「「あ」」

と、二人は声をあげましたが手遅れです。
完全に、捕まっていた手すら離してしまったさんが「こぼべばばば…」と水に沈んでいくのと、一年は組のみんなが水面からぴゅうぅー、と水を噴いて顔を出すのは同時でした。

「うわぁああああああさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

真っ青を通り越して真っ白になった土井先生が慌てて水に潜っていくのを見て、何が何だかわからないと、は組の皆が首を捻るのでした。













その後……ドクタケ城では、稗田八方斎の猛烈な反対を押し切った形でさんファンクラブなるものが発足し、
忍術学園では幸せそうに笑うさんと人生の春を謳歌していてちょっとだらしなく笑う土井先生の姿が学園内の随所で見られるようになり、その二人の様子にきり丸がうんうんと満足そうに頷いていたということです。







めでたしめでたし。







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といった訳で土井先生エンド。一番王道。
寸止めってとっても大事なファクターだと思うんですよ。
尚、選択肢それぞれでそのお相手に思いを寄せていたってことにしておいてください。
でないとヒロインさんが物凄いあれな人のようになってしまいそうで。(あれって何だ)