なんだか変な感じ、と呟いた。


「…………何が? 気持ちいい、とかって意味じゃねえよな」


私を押し倒す上半身裸のユーリにまっすぐ見つめ返されて、同じように服の前だけ肌蹴させられた私は思わず目を逸らす。……この状況はいつまで経っても慣れやしない。


「昔に読んだ本でね、幼馴染同士の恋愛感情って、発現しにくいってあったの」


ユーリの長い黒髪がさらさらと肌をくすぐり、ぞわぞわと上ってくるこそばゆさとも気持ち良さともつかない何かを意識の外に追いやりながら私は続けた。


「小さい頃から一緒だと、それこそお互いの……嫌なところとか、みっともないところとか、そういうのを見続けた結果、……家族みたいな、そういう認識になっちゃう、らしくて、異性を意識し辛くなるって」
「ふぅん」


大して興味なさそうに聞き流したユーリが首筋に顔を埋める。その直後、ちくりとした強い痛みが走り、あぁまた明日も首を隠さなきゃ、とぼんやり思った。
素肌同士が重なって、熱い。
ユーリの胸板の下で潰れた胸が圧迫されて少し痛み思わず眉を寄せる。背中に回した手でユーリを軽く叩くと、行為に没頭しかけていたらしいユーリは微妙に不機嫌そうに体を起こした。
くっついていた胸が離れて入り込む空気の冷たさに一瞬ひやりとして、ユーリの体の熱さを名残惜しく感じつつ肌蹴た服をそれとなく掻きあわせながら起き上がる。ユーリ相手とは言え、裸の胸をじっくり見つめられるのは恥ずかしい。


「んで? さんとしては幼馴染の俺達がこんな風にただれたカンケーになってるのが変だって言いたいわけか?」


まるで自分たちの関係を否定されたとばかりに不貞腐れたユーリの言葉に、私は慌てた。


「そうじゃない、そういうことじゃなくって。…………その、私はユーリの事幼馴染としてだけじゃなくって、男の人として好きだもの。き、キスして欲しい、とか私の事だけ考えて欲しい、とか…………こっ……こういうこと、して欲しい、とかそんなこと思うのは、……ユーリにだけだし。家族みたいな感情が全くないわけじゃないけど……それだけじゃすまないし……」


言っている内容に恥ずかしくなり、どんどん語尾から力が消えていく。
俯いてしまう私の視線の先に、ユーリの少し赤くなった顔がぬっと現れた。そのまま掬い上げるように近付いた唇が触れあう。
下唇を甘く噛まれ、ちゅ、ちゅ、と音を立てて軽く吸われる。そうやって何度も唇が触れたり離れたりするたびに少しずつ上半身を倒される。
数え切れないキスに体も頭もぽっと熱を持ち、抵抗のての字もない。呆気なくぽふり、と体がベッドに沈み込むと、なにやら満足げなユーリに目蓋へ口付けられて思わず体を竦ませた。そっと頭上のユーリを窺うと、一人にやにやと口元を緩めたユーリは、今度は頬へ唇を落としてきた。


「お前、時々すごい殺し文句吐くのな」
「えぇえ……!? そうかな、思ったこと言ってるだけなんだけど……」


しどろもどろになる私を見下ろし、ユーリは喉の奥でくく、と笑った。そうやって笑うユーリが好きだと何気なしにぽつりと呟いたら、「そーいうのが殺し文句なんだっつの」と微苦笑される。


「ま、色々嬉しいこと言ってくれたお礼にひとつ、教えてやるよ。―――俺ん中では、単なる幼馴染におさまらなかったんだよ、お前って存在がな」
「……そうなの?」
「そーなの」
「……そっか、何かわかったかも」
「そ、よかったな」


んじゃ、話は終わりだ。
笑みを深くしたユーリの首に、ゆっくり腕を回した。








(最初は義務感だったよ、責任感もあった。
お前を守らなくちゃいけないってな。
それが気づけばお前を守りたいって願望に変わって、
更にはお前を俺のものにしたいって欲望へ姿を変えて)
 



(愛情だった、ってこった)