窓の外から小鳥達のさえずりが流れてくる、そんな穏やかな朝。 ふ、とまぶたを開ければ、早朝の澄み切った空気と光が飛び込んできて、ほんの少し目を細める。あぁ、その向こうに透ける青空に星喰みさえ見えなかったらどれだけ素晴らしかっただろう、とひとり唇を噛み。そして不意に気づいた。 いつベッドに入ったんでしょう、私。 たらーり、と汗が一すじ頬を伝う。どうしよう、昨日一日何してたっけ……。 暫く呻りながら考え込んでみたけれど、全く思い出せる気がしない。というより、見ていた夢が衝撃的過ぎて昨日の記憶が時の彼方に飛び去ったんじゃないだろうか。 その夢を思い返すだけで、両頬が目玉焼きなら作れるんじゃないかってくらいに熱くなる。 何せ、幼なじみ二人に同時に愛の告白をされるなんて荒唐無稽もいいところだ。 確かに数年前まではちょっとそんな展開があったりしたらドキドキするだろうなーとか思ってたけれど、その後改めて二人を見て、ないわー、とあっさり諦めた。自慢じゃないが私は正直見た目も(それなりに整ってはいるだろうけど、パーツの位置的な意味で)平々凡々で、中身だって極々ありふれたそこいらにいる小娘だ、少なくとも私はそういう認識でいる。精々売り子業(?)で多少人気がある程度、だろうか。 長身で腕っ節も強く、優しくて頼りがいがありついでに美形というとんでもない好条件の幼なじみ二人に思いを寄せられたりなんてまぁあるわけがない。そんなことあったら昔の小説か! なんて突っ込んでいるだろう、きっと。 何にせよ、きっと今日見たこの夢は、エステルに対する変な嫉妬を少なからず収める為に私の脳みそが無い知恵絞って作り出したものなんだろう。もやもやが完全に消えたわけじゃないけれど、かなりすっきりしていたのは確かだった。 しかし……夢の最後でフレンとユーリからほっぺたとは言えキスされたときの感覚が夢だと言うのに恐ろしく生々しくて、知らず知らずに、夢で二人の唇が触れたあたりを押さえる。こんなんでまともに二人の顔を見れるだろうか、いや見れない。 あうあう言いながら頭を振り被る。と、ここでようやくこの部屋にいるのは私だけだということに気づいた。 私以外の女性陣は皆先に起きていたのか。普段は一番早く起きているせいか明確に遅刻というラインは無いのに寝過ごしたことに内心焦る。しまったな、迷惑かけたかも。忙しなく着替えに袖を通し、ガチャリとドアノブを捻る。 「よ、」 「おはよう、」 まさか部屋を出た一歩目から出くわすと思わなかった。 一瞬まごついたけれど、あれは夢あれは夢あれは夢と小さく三回呟いてから「二人ともおはよう」と笑顔を作る。 が、その挨拶を向けた先の二人は微妙に苦そうな表情で顔を見合わせた。 「案の定だったね……」 「だろ?」 はぁ。溜息の二重奏だった。それから揃ってニヤリ、と不敵に笑い、それぞれの利き手が私の両肩をしっかり掴む。 「言っとくけど、夢じゃないぜ」 「現実だからね」 「へ? は!?」 何が!? なんて聞くまでも無い。今日見た夢の事だ。 ユーリもフレンも、私の夢を知っているような口ぶりで、あの夢は現実だと告げ。 呆然と二人を見上げる私の体に二人分の影が落ち。 そして、夢の最後のシーンが繰り返された。 「…………」 ほぼ同時に両頬の唇が離れた。の反応は皆無だった。―――そろそろと緩慢に動く両手が唇の触れた位置に届いて、ぽけらぁとした表情のまま数秒が経過する。 そして茫然自失としたそのままに、はその場でくるりと背を向けて、何の言葉も無く部屋に戻っていった。 その数秒後。 「昔の小説かあああ!!」 という叫びが宿の中に響き、なんだどうしたと集まってきた仲間達への事情説明もないまま、ユーリとフレンの大爆笑がその後長く続いたという。
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