夕暮れの下町を黒髪の幼馴染の少年と一緒くたに走り回る。きゃあきゃあと声を上げ、溢れんばかりの笑顔が、『今』の私にはとても眩しかった。 夢だってわかってる。わかっているから、どうかこの幼い日々のまま時間よ止まれと思うのだ。 人を殺めてしまった黒髪の主を、今の私は恐れてしまうから。 「フレンと一緒にいたいんだもん……」 拗ねてむくれるの顔を思い出す度、仕事に力が入る。今日こそは、仕事を残さず夕方には帰る。そう決意したのに、執務室はすっかり夜の帳に覆われていて、思わずため息をついた。そこに響くのはノックの音。そこにはの姿があって、思わず二度見した。 俺の可愛い幼馴染が滅多に見せない鬼気迫る表情で何をしてるかと言うと、俺の髪を物凄い勢いで編み込んでいる訳だが、何故こうなったかと言うと、俺が彼女を怒らせたからである。悪かったお前の好きにしてくれていい、等と言ってしまったのが運の尽き。かれこれ数時間、俺は微動だにする事も出来ない。 俺のミスで仕事が失敗した。 翌日に引っ張りたくなくて、普段通りを装って帰ると、お疲れさま、そうふにゃりと笑ったが一瞬真顔になって、俺の手を引く。それからそぉっと両腕を回されて、無言のまま柔らかく抱き締められた。 あぁ、こいつには隠しても無駄なんだな、今さらのように思った。 今夜の夕飯を一緒に作りたいと言われた時点で逃げたらよかった。 「なんだか味が薄いな」とか「もう少し甘味が」とか言いだす度にそれとなく軌道修正を図ってきたけれど、ほんの少し目を離した隙に注ぎ込まれていたのはタバスコ2瓶。さて、どう逃れようか。料理と言う名の兵器完成まで後僅かである。 こいつはどうしてこうも俺を煽るのか。ユーリ、と頼りなく呼ばれた響きに、思わず喉を鳴らして、次の瞬間には寝台に押し倒していた。俺の所業に驚いたらしいが目元を赤く染めてのしかかる俺を見上げるが、それすらもくらくらさせられる材料にしかならない。俺がお前の無意識に翻弄されるだけだ。 (診断系で貰ったネタ) 「ユーリ痛いよ、腕離して」「……ってねえし」「え」「お前にキスするのが嫌とか一言も言ってねえし!」顔を逸らしながら叫ぶように言うユーリの横顔は、普段からは想像がつかないほどに赤くて。ああ、もしかして緊張してるんだと思ったら思わず口元が緩む。それを見た彼に不愉快そうに唇を塞がれた。 「あ、あのねユーリ」「お?どした?」振り向いてくれた大好きな人に思いきって告げる。もしかしたら今後迷惑かけるかも、と続ける筈だった言葉は一瞬でユーリの唇に飲み込まれた。「お前は俺を幸せにする天才なのな」喜びを噛み締めているかのような呟きに、私はそっと自分のお腹を擦った。 【フレンさんの子供が出来ましたネタ】 「あの、出来た、みたいなの……赤ちゃん……」 仕事が忙しい中、時間を作ってくれたフレンに恐る恐る報告する。結婚して一年経つか否かくらいなので、出来てもおかしくはない。けれど、騎士団長として働く彼に今後負担をかけるのは確かだ。 そうなると迷惑をかけるかもしれない、そう思ってしまうからつい顔色を窺うような言い方になってしまった。悪いことではないのに、とお腹にいる命に罪悪感を抱きつつフレンの様子を見る。 そのフレンは、ポカンとこちらを見つめていたかと思うと、突然椅子を鳴らして立ち上がった。 そしてバタバタと慌ただしく執務室から続く隣の部屋に駆けて行き、ガタンドタンと何やら派手な音を立ててやはり慌ただしく、時折つんのめりながら戻ってきた。――その腕に、毛布を抱えて。 「その、冷やしたらいけないから」 そう言ってふわりと肩に毛布をかけてくれる。 今はまだ夏と言っても差し支えない時期ではあるのだけど、フレンはそのあたりが綺麗に頭の中から抜け落ちているようだった。……相当に動揺しているらしい。 「……抱きしめてもいいかな」 徐ろに尋ねられる。その声が少し震えていて、思わず聞き返そうとしたら抱きしめられた 「フレ、」 「ごめん、どうしよう」 視界いっぱいにフレンの体。上ずる声だけが耳に届く。 どうにか視界の自由だけを確保して、夫であり父親になる人を見上げると、真っ赤な耳がちらりと見えた。 「どうしよう、今、僕はきっと世界で一番幸せで、なんて言えばいいのかわからない。どうしたらいい?君に心からの感謝と愛を伝えたいのに、言葉が見つからないんだ……!」 戸惑うような言葉とは裏腹に、強まる腕の力がフレンの感情を強く強く訴えかけてくる。それが嬉しくて、腕を伸ばしてフレンの体を抱きしめ返した。 「……本当にありがとう、…愛してる」 それから少し落ち着きを取り戻したらしいフレンがそっと体を離した。 「これから準備が忙しくなるな。僕も少し自由に動けるようにならなくてはいけないね」 「うん…暫く迷惑かけちゃうね」 「迷惑なもんか。こんな嬉しい迷惑ならいくらでもかけてくれ」 満面の笑顔が眩しい。この人が夫でよかった、心の中で感謝していると、「あぁ、でも」と急にトーンダウンしたフレン。 何かまずいことがあっただろうかと思っていたら、フレンは照れくさそうに笑った。 「僕だけの君である期間は長くてもあともう半年とちょっとか。それだけが、残念かもしれないな」【終劇】 (おめでたネタからの喧嘩ネタという急転直下) 「もういい、フレンなんて知らない、」「待ってくれ」「どうせ私なんかどうでもいいくせに!」 その刹那、どうでもいいわけないだろと低い囁き。ああ怒らせたと口から飛び出した言葉を悔やんでももう遅い。 「いい加減、ちょっと黙って」暗い瞳に射竦められた私は、フレンの口封じを甘んじて受けた。 ユーリって軽口は達者なのにあまり心情を語ってくれることはないでしょ。けどね、私を見る眼差しや私を抱き締めてくれるその腕は、どんな言葉よりも雄弁に伝えてくれるから「わかった皆まで言うな、自分で聞いといて何だけどさ、俺お前には色々だだ漏れって事なのな…」俯いた彼の耳が赤くなっていた。 「こーゆーことしといて今更って思う?」お互いの裸の体の凸凹がパズルのようにぴたりと嵌まるような、元から一つだったかのように、私たちは重なりあう。私をがむしゃらに抱き締めたユーリが、どこか泣きそうな笑顔を湛えて、堪えるような、震える声で「好きだ」ただそれだけを、囁いた。 もしも魔法が使えたなら、どうする?戯れに尋ねただけなのにユーリは何やら真剣に考え出した。「そーだな…とりあえず」ニヤリと笑い、答えを耳許に囁く。「ぅ……も、バカ」予想外の返答に思わず可愛くない返事を返すも、それすらユーリは解っていたみたいで「そーゆー反応がいいんだよ」と更に一言。 気付けば二人で夕食をとるのも二人一緒にベッドに入るのも、そして朝を一緒に迎えるのも当然になっていて。朝御飯出来たよと笑顔の彼女に何事もない口調で、その実恐ろしい緊張を隠しながら「なぁ、結婚しちゃわねぇ?」なんて尋ねてみる。「いいよ」返事は果たして、何気なくも甘い喜びに満ちていた。 「いい夫婦の日か。こうやって二人で買い物している僕達も仲の良い夫婦に見られたりしてるのかな」「ふふ、下町ならともかく、ここではそう見られてるかもね?」「……そうだったら嬉しい…なんて思ってしまってもいい、だろうか」「…………うん」『……』「……何だか照れ臭くなってきたよ…」 「つっかれたー今日はマジで疲れたぜ……」「お疲れ様ユーリ、晩ご飯何がいい?」「あー、そだなコロッケとか食いたいかも」「了解作ってく「俺も手伝うわ」……疲れてるんじゃないの?」「疲れてるよ?」「じゃあ何で」「今日は結婚して初めてのいい夫婦の日だからな、あとは察してくれ」 「ただいm「おーお帰り、飯作っといたけど食うか?」…………うん、まあいいよユーリのご飯美味しいしね、うん」「おう、期待しとけ。今日はお前の好物だからな」「やったーそれは素直に嬉しい」 こうですかわかりません 〜2015.6.23 @dd_sumicco |