本年もS.H.S.B.をよろしくお願いします。 スミコ拝
※ あ、例によって選択肢ごとに出来上がってるぷちパラレルですご了承ください。
(地味に現代パロです、着物的な意味で。色々とものすごくご都合主義ですが)
「これ僕の自信作だよ、良かったら食べてくれないか?」
「やめとけやめとけ、新年早々大博打打つ必要ねえだろ。それより、この伊達巻美味いぞ。ほれ、口あけてみ」
「これが嫌だったらこっちの料理なんかどうだい? こっちも自信作なんだ。どうぞ召し上がれ」
「おいこらフレン、俺はスルーかよ」
「フォーク刺す位置下過ぎる人はどうでもいいからね」
「……異様に赤すぎる料理作る奴に言われたくねぇよ」
(わー、こりゃおっさん入る隙間ねぇなー……って、ちゃんの熱い視線を感じる……!? って……、お雑煮が食べたいのか、もしかして……。ちぇー、おっさんを見てたわけじゃないのねー)
フレンのキラキラした目の訴えに負けて、フレン手作りのお料理をいただいてみた。
「……ん゛っ……ぐ、ぅふう!?」
おかしいな、どう嗅いでも甘い匂いなのに口に含むと何で苦酸っぱいのかなこれ……!! ええええ後味はしょっぱいの!? しかも色が尋常じゃない赤さの所為で辛いかもって覚悟はしてただけに絶妙な裏切られ感がまったりとして
それでいてしつこくなく、とてつもないハーモニーでしゃっきりぽん……っ!! ていうか何ですかこれ何ですかこれ何ですかこれ!!? 何だこのまずさ―――!?
―――と、口に出せないこのカオス。
努めて無表情でこの赤くて苦酸っぱい何かを咀嚼する。真正面でにこにこと嬉しそうに私を見ているものだからそのプレッシャーはもうハンパない。真っ青になったレイヴンさんと何だか気の毒そうな顔でこちらを伺っていたユーリがばたばたと慌しく水を取りに行くのが視界の端にちらりと映る。あああああありがとう二人とも、その気持ちが嬉しい…っ!
心の中で感謝しながら、ようやく口の中のもの全てを飲み込んだ。ふぐあああ、私年明け早々がんばった……!
「おっ、い、し、っかったよ!」
完食した達成感も手伝って微妙に麻痺した口で、(少なくとも気分的には)元気よくフレンに笑顔を向けた。
私勝った! フレンの料理に勝った! 心のなかでひそかにガッツポーズを決める。
しかしフレンは私の顔をじっと見つめ、それから手にした小皿を見つめ、眉を寄せたまま無言。
そして何を思ったか突然。困惑する私の顎を持ち上げて微妙に恐い顔のまま口付け……は!?
は!? 何で!? 何でこの流れでキス!?
しかもフレンの舌が口内を隅々蹂躙し、ご丁寧にも私の舌の上までざらりと舐め、おまけとばかりにぢゅう、と音を立てて吸い付いてきた。
「ん……味薄かったみたいだね。ごめん、いわば未完成のものを食べさせてしまったみたいだ。すぐ完成させてくるから楽しみに待っててくれるかい?」
私の唇の端からちょっとたれた唾液を親指で拭い取りながら難しい顔をしてそんなことを大真面目にのたまったフレンを前に、気が遠くなった私であった。
もうちょっとマシな味見のしかたはなかったのか、と。
(、ほら水……ッうおあ、ちょっ、おい!? ……気絶してる)(……うーわぁ……フレンちゃんの料理恐るべし)
(……うーん、何だか妙に甘みが強いな……いや、これはの所為……かも知れないけど。うーん……)
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ユーリの差し出すフォーク(に刺さってる伊達巻)の魅力には抗い難かった。
「ほら、あーんしろ、あーん」
「あ、あーん……」
……こ、これは恥ずかしい。なんとも微妙な恥ずかしさを、目をぎゅっと閉じ我慢して伊達巻を待ち続ける。が、待てど暮らせど(は、言いすぎだけど)伊達巻が一向に口の中に入ってこない。不審に思って目を開けると、ユーリの真剣な表情が目に入った。その次の瞬間、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、
「ほれほれ、ほーれ」
と何故かフォークを高く持ち上げ出した。
思わずパン食い競争よろしく口を開けながら伊達巻にぱくつこうとするたび、ユーリの手はひょいひょいと逃げを打つ。
右側に逃げたと思ったら次は左、さらに上に伊達巻を遠ざけたり、まるで食べさせる気がないような動きだった。……何がしたいのだろうか、ユーリは。まさか今更背が高いのを自慢でもしたいのだろうか。
思わずムッとしながら、しかし伊達巻を食べたくてしょうがなかったのでユーリの両肩に手をかける。ユーリの体がぎくりと固まった気がして、しめたとばかりに私は両手の力を強めた。少しでも背伸びするため、ついでに逃げ難くなるように半ば壁に押し付けるように。逃がすものか伊達巻っ!
が、その刹那。
「いっちょあがりっと」
ユーリの右手が、背伸びして不安定な私の腰を一気に引き寄せた。まごついて悲鳴をあげる私を小袖に包んだ広い胸で受け止め、満足そうに笑い、
「ほい、あーん」
とぽかんと開いたままの私の口に伊達巻を差し入れ、ユーリは。
「んじゃ俺もいただきますってな」
と、反対側から伊達巻にかぶりつく。え、と思う間もなく唇が触れ合った。そのまま口の中に侵入してきた舌に翻弄され、あまりの出来事に咀嚼を忘れて形が残った伊達巻を浚っていった後、ようやく離されて乱れた呼吸を整えているところに
「新年初キス、ごちそーさん」
と、余裕綽々のコメントを戴きました。
(その直後、割烹着姿のフレンによる踵落としがクリーンヒットして、ユーリが悶絶する羽目になった。私で遊ぶからです……全くもう。)
(………………男の嫉妬はみっともないって言わねぇか、フレン……)(だから何なんだい)(……あっそ)
(それはさておきフレンちゃーん、裾乱れてるよ、裾)
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「お雑煮美味しそうだね、レイヴンさん」
ほかほかした湯気と美味しそうな匂いに負けて、レイヴンさんのそばにすり寄る。美味しそうなお雑煮に目が釘付けになっていると、レイヴンさんは持っているお椀をそっと差し出した。
「これ、おっさんの手作りなのよ。ちゃんも食べるかい?」
なんと、このちょっとした料亭で出てきそうなお雑煮がレイヴンさんお手製だという。
いや、男やもめも長いと言っていたし、家事は普通に出来る人なので言われてみたら当たり前ではあるのだけど。ただ、何度かご馳走になった時に見たものは男の人の料理、って感じでそこまで見た目にこだわる感じではなかったはずだ。
という理由もあり、体裁を整えられているお雑煮を出されて驚いたまま暖かいお椀を受け取り、一口すする。……うわ、これは……!
「……初めての味……すごい美味しい……!!」
「お、旨い? そかそか、そりゃよかった」
この香ばしく繊細なお出汁と具材の美味しさは今まで味わったことがなかった。言葉少なに興奮しながら伝えると、レイヴンさんはふにゃりと相好を崩す。「気に入ってもらえたら何よりだよ」と、私の頭を柔らかく撫でる。それに気をよくした私は思わず作り方を尋ねた。
しかしレイヴンさんは茶目っ気たっぷりにウインクするだけで、「内緒」と教えてくれる素振りがない。
少々不服に思いつつも引き下がり、いささかしょんぼりとしながらお雑煮を平らげていると、レイヴンさんの苦笑が目に入った。
「別に教えたくないわけじゃないのよ、ただね」
「……ただ?」
先を促すと、レイヴンさんは自分から口を開いておいて、言い辛そうに口をもごもごさせた。酷く照れくさそうにしながら、ちらりと視線をあちこちに向け、呟いた。
「来年も再来年も、そのまた次の年も、ちゃんとお正月過ごしたいから、教えないの。俺が作ってあげるから、さ。毎年一緒に……ね?」
その言葉の意味を理解して、お屠蘇も口に付けてないというのに頬が熱くなる。
ほぼ同時に私が理解したことを理解したレイヴンさんの頬も僅かに赤くなっていた。胸のうちがふわふわしてきた私は、恥ずかしげにしまりなく笑う十五歳年上の好きな人に抱きつく。驚いて固まったレイヴンさんに構わず、かさついたその唇に口付けた。
(え、何これ目の前でプロポーズもどきを承諾されるとかなんなんだおい)(、まだ決めちゃ駄目だ! その決意はもうちょっとちゃんと考えてから……!!)
(ちょっ、えっ、ちゃんにキスされ……!? ……もう、おっさん正月から幸せ過ぎて今年一年が怖い……!!)
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