何の脈絡もなく、猫の耳が生えました。

引っ張っても痛くて抜けません。隠せるようなものも見当たらず、途方にくれました。
仕方がないので……




ユーリのところに逃げ込みました。
フレンのところに逃げ込みました。




















「…………、へ…っと、は……」

私の姿を見て変な声を出したきり、ユーリの動きはぴたりと止まりました。何故か片手で顔を覆い、視線だけがそっぽを向き、時々チラチラ、と私の頭に向けられます。でもそれだけです。その耳どうしたんだ、の一言もなければ、何だそれ変なの付けてきて、と言った笑いもなく、ユーリの体だけ時間が止まったように動きません。
ユーリのところに来たのは失敗だったかな、気持ち悪がられてしまったかも、と些かしょんぼりしました。頭の上の耳もぺそり、と力なく臥せってしまいます。するとユーリは突然ツカツカと私に歩み寄り、そのまま私の体を高い高いするように抱き上げました。
いきなりのことに私は悲鳴を上げました。けれどもユーリの視線は私の頭に向いたまま。
そしてユーリは私を膝に乗せるようにして座り、私の頭に生えた、髪と同じ色をした耳を無言でモフモフし始めました。
もふもふ、もふもふもふ。
こそばゆさに体を縮込ませると、耳も一緒に縮こまります。そっとユーリを観察してみると、何だかニヤニヤを一生懸命我慢している顔で、ただひたすらに私の耳の先を指でちょこちょこ弄っています。指が触れるたびにぴるぴる震える耳を見たのか、ユーリはふにゃらと笑うのです。
そんな彼からはとてつもなく幸せそうなオーラさえ漂ってきて、私はまぁいいか、と思いました。
そうしてその日はずっとユーリに耳を弄くられて過ごしましたが、日付が変わる頃に耳は消えうせ、ユーリはほんのちょっぴり悲しそうな顔をした後、半分うとうとしていた私を抱きしめてベッドに潜り込みました。
































「………………………………………………どうしたんだい、その耳」

私の姿を見てから、随分長い沈黙の後、フレンはそれだけ言いました。声は深刻なのに、顔は何だか真っ赤になっています。熱でもあるんじゃないかと心配になって問いかけると、微妙にひっくり返った声で「大丈夫だよ」と言いました。そうは言うものの、やっぱりどことなくそわそわしたフレンに私は首を傾げます。
とりあえず、突然に耳が生えてきたこと、どうにも抜けないことなどを話して一人だと不安だからここにいさせてとお願いすると、フレンはやっぱりどこかそわそわとした様子で「参ったな……」と小声で呟きました。
どうやら私はお邪魔なのかもしれません。これから来客とか、お仕事の予定が入っているのかも。そのあたりの予定も確かめずにここにいさせてと言ってしまった自分の迂闊さを呪います。感情と連動した耳がたれるのを感じて色々とばれやすくなって厄介だなぁと恨めしく思いましたが、あるものはあるので仕方ありません。
誤魔化すようにユーリのところに行くことにする、と早口で告げていそいそとフレンの部屋の扉に手をかけました。
すると背後から力強く抱き寄せられました。突然の事に戸惑っていると、フレンが耳元ではぁ、と溜息をつきそして小さく囁きます。

「そんな可愛い姿の君と一緒に居続けたら、僕の理性がもたなくなりそうで怖かったんだ。でも」

君がユーリのところに行くと言うのなら、行かせるつもりはないよ、と。