最初に断っておこう。私はオタクな審神者である。
 もうひとつ言うと、現在半神半人でもって、今後生きながら神になるのがほぼ確定している、とりあえず今はうら若い女子である。え、知ってる? ……やめて備忘録事件のことは言わないで。それ確実に黒歴史。



 それはさておき。



 そしてここはそんな私が生活することになる本丸、なのである。麗しい上に心優しいバラエティー豊かなイケメン集団、もとい刀剣男士達が住まい、 いずれ私を主と慕ってくれる彼らとともに、永い永い時を過ごすことになろうというこの場所。
 私の元自宅の使われていない一室から繋がるこの謎時空間のど真ん中に作られた神の住まう地は、住まう彼らにとって快適であるように作られている。
 庭を散策すれば美しい日本庭園が広がり、傍らの東屋では本丸付きの妖精さん的な何者かがお茶をいれてくれたり、お菓子を振る舞ってくれたり。勿論刀達自ら腕をふるったお菓子や料理なんかも出してくれたり。
 ただの広い野原みたくなっているところは、見た目幼い短刀達の格好の遊び場であり、青年の姿をした刀剣たちも含めて鍛錬の場でもある。そして道場も完備。たろさんじろさんこと太郎太刀次郎太刀を始めとする大太刀も何不自由なく鍛錬に励める天井の高さが魅力らしい。
 そして自給自足を可能にする畑や厩舎も完備、季節の花々が揃うお花畑もあれば魚釣りもできる小さな川も備わっているというこの本丸、もしかしてとんでもなくオーバーテクノロジーを使用したのか、 刀に宿った付喪神の分御霊として勧請された彼らの好みが実体を伴ってこの空間に反映されているのかは知らないが、正直あんまり統一性はないけど日々を過ごすだけならば全く以って不満はない。ないのだが、私は声を大にして言いたい。



……娯楽を下さい。切実に欲しいです。

 

 

 

と あ る 本 丸 の 娯 楽 事 情 と 見 物 人 の 話

 

 



 考えてもみて欲しい。この娯楽にまみれた現代でとりわけディープと言われている(風評被害もあるが)オタクという人種の私が、歴史のお勉強しなさいよと言わんばかりに作られた書庫の書物……それこそ巻物も書籍も時代を問わず揃っているけれど、それだけを読んで過ごすとなると流石に飽きるのは目に見えている。一度漫画文庫作っていいですかって未来の政府の何とかさんに聞いたら、実費でお願いしますって頭を下げられてしまったわけで、いやぁさすがにあのお給料なら作れるんだけど、ねえ。色々もやもや考えているうちに、じゃあ実費ならなんでもいいのかなと思って確認したら何故かOKが出た、ので。


 暇つぶしの強い味方、ゲーム機各種を取り揃えてみました。(ついでに各種書籍も取り寄せた)
 電力はどこからきているのか考えてはいけない。尚、この本丸は現代半神半人の私にやさしいオール電化である。電気代は外の元自宅宛に請求されていますよ、いやはや世知辛い。まぁまだまだ元自宅が私のメインの寝室になってるわけだから自宅分もあるっちゃある。
 据え置き機・携帯機ともに最新ハードをいくつか、テレビ番組は見ないけれどモニターは必要なので結構大きめなテレビを購入。ソフトは自宅にあった自前のものと欲しかったものをどどんと運び込んだ。
 よっしゃー、暇な時は遊ぶぞー!!


 と遊んでいたのをわちゃわちゃいる同居人(数十名)に目撃されない筈もなく、結果ゲーマー仲間が出来た。
 お呼ばれした私の家族達よ知ってるか、付喪神もゲームするんだよ……。


 例えば、獅子王。
 彼は某ひと狩りいこうぜなゲームにダダハマりである。使用武器はまさかのライトボウガン。何でライトボウガンなの、太刀じゃないのって笑いながら聞いたら、「だーってさぁ、このゲームの太刀なんか太刀じゃねえし物凄い使い方されてるしなんかさぁなんかなんだよなぁ」という、ふにゃふにゃした太刀目線の回答をいただき、あっそれは仕方ないわって真顔で納得した。いやほらゲームだから細かいことは言わないけど、まぁうん。仕方ないよね。
 でも一緒にクエストに出た時あっという間にゲリョスにカチコミされた私を「あんた下手っぴだなぁ!!」ってカラカラ笑いやがったのでいつか報復しようと思う。具体的には剥ぎ取り中にタル爆弾でもお見舞いする予定である。御手杵(ランス使い)と鯰尾(驚愕のハンマー使い)を巻き込んだらその時はごめん。


 例えば、雅じゃない方の兼さんこと和泉守兼定。
 彼は意外なことに皆で集まってワイワイやるゲームが好きらしい。友情破壊ゲーとして名を馳せるすごろく的なあれだとか某メーカーの有名キャラが一堂に介してボコスカやるあれだとか、とにかくその手のゲームを何人か集めて遊んではだいたいビリッケツになるという状態である。そんな彼の助手(自称)の堀川国広はと言うと、容赦なく相棒をゲームで蹴落としてたりする。案外力関係は堀川のが上なんだろうか。…………それっぽいな。ちなみに鯰尾はキング何とかを兼さんや私になすりつけるのが得意である。酷い。私になするのはかんべんして欲しい。


 予想外だったのは山姥切である。何と彼は黙々と作業するタイプのゲームをお気に召したらしい。
 何故女が主人公なんだ、男が錬金術士じゃ駄目なのか……! とぶつくさ文句を言いつつ、アトリエ経営は早くも四周目に突入している。今度は主人公を伝説の人というポジションまで押し上げるつもりらしい。…………ちょっと待ってこないだ三作目で王立アカデミー作ってなかったっけ? こっちに持ってきてないはずの一作目が何故……と疑問に思っていたら私の私室から鯰尾が探してきたとか。後で長谷部と一緒にお説教します。いくら自宅部分も私の力でカバーできるようになったからって乙女の部屋に勝手に入るんじゃない。っつーか ゲームにおける鯰尾の存在感が半端ないな。


 とまぁ、上げ続けると結構キリがない、と思う程度にはゲーム仲間が増えた。……オフレコだが、らんちゃんこと乱藤四郎とは伝説の乙女ゲーについて語り合うことの出来る唯一の同志であることを追記しておこう。そして懲りずに鯰尾が乙女ゲーに手を出そうとしたのを謎の羞恥からくる焦りで全力で止めたのはつい最近のことである。




 そんなゲーム仲間たちが揃って遠征で出払っていたので、私は一人暇を持て余しぽちぽちとパズルゲームに興じていた。刀達が仕事で出かけているのにゲームなんて不謹慎、との声が上がりそうだが、残念なことにこれが仕事なのだ。いやゲームではなく私が今ここにいることが。
 この本丸……正確にはこの謎時空間だが、この場は一定周期で不安定になる。それを解消するために、この場の主である私の神気とやらを巡らせ同調させる必要があるのだが、その神気を巡らせる為に、同調を手伝う近侍を除いた刀達が立ち入ることの許されないだだっ広い板の間におよそ二時間ほど篭もらねばならない。そしてその同調させる日が今日であり、ただ今真っ最中だった。精進潔斎でもしていれば、と思わないこともないけれど、特に神職とは縁のなかった私にそんな高尚なことが出来るわけもない。なにせイマイチやり方がわからない。 ググれと言われたらそれまでだが。
 ありがたいことに、この部屋にさえいればそのうち勝手に神気が巡り同調し始めるので、遠征に出た面々の無事を祈りながらこんなふうにゲームしているのである。携帯機万歳。


「大将、同調そろそろ終るぞ」


 ひょっこりと板の間に顔を出したのは、本日の近侍で我らが兄貴(他の同僚の審神者談)こと薬研だった。彼ら粟田口一派揃いの制服らしい衣装に身を包み、板の間に座り込んでゲーム機を触っている私の元へ静かに歩いてきて、ひょいと真横にしゃがみ込む。


「……これ、何のゲームしてるんだ?」
「パズルゲームだよ、こんな感じの」
「っ!」


 ゲーム機をこの部屋に持ち込んだのは初めてだったからか、薬研が物珍しそうに画面を覗きこんだ。普段ゲームに触ることのない薬研がこうやってくるのは珍しくて、ずいっと距離を詰めて彼の目前にゲーム機をつき出す。昔から遊んでいた軟体生物を4つ以上つなげて消し合うあのゲームである。
 華やかでカラフルな内容にびっくりしたのか、薬研が目を丸くして私を見た。あれ、これはもしかして興味あり、か?
「私が唯一得意なパズルゲームなんだよねぇこれ」
「…………へぇ」

 画面を二人で見れるように、ぴったりと薬研の真横に張り付いて、ゲーム機は薬研に寄りつつ真ん中に。……ちょっと見づらいので、失礼を承知のうえで首を薬研に傾ける。


「っと、おい大将」
「あぁ、ごめん。こうしたほうが見やすいかと思って」


 途端に慌てた薬研に一言謝ってから、私は慣れた手つきで十字キーを押した。微かに身動ぎする薬研の気配を感じながら、連鎖を作るべく着々と積み上げた。見てて、と囁いてから、落ちてくるパーツを中段の起爆口にのせると、まずひとつぱっと消えた。そこから可愛らしい掛け声が次々かかり順番にパーツが消えていく。よし、ばっちりだ。
 ふと隣を伺うと、予想よりはるかに間近に薬研の綺麗な顔があった。透き通るような藤色の目線は画面に吸い込まれていて、どうやら私が作った連鎖に目を奪われているようで、「こりゃ凄いな」と短くも感嘆のこもったつぶやきが薬研からこぼれ落ちた。
 やった、薬研が驚いてくれた。嬉しくなって思わず笑みが浮かぶ。


「大した特技じゃないけど、凄いっしょ?」


 目を見開いた薬研が、「……ああ、そうだな」なんてややあってから頷いてくれたのが嬉しくて、この時薬研の耳が真っ赤になっていたことなんて、私が気付くことは一切なかったのだけど。
 そんな、一部の刀剣男士から「たまに残念」と評判の私はこの直後、自分で近づいたにも関わらず、薬研とべったりくっついていた事に赤面した。


「なんだよ大将ぉ、自分から俺にぴったりくっついてきて照れてんのか?」
「あぁー、うん、ちょっと夢中になりすぎた……ほんとごめん、肩まで借りて」
「ははっ、気にすんな。いいもんも見れたし、お互い様って奴さ」


 そうやって笑い飛ばしてくれる薬研の心遣いにはいつも頭がさがる思いである。それにしても、私が作った連鎖を「いいもん」と評してくれたのは純粋に嬉しい。もしかしたら、一緒に遊んでくれるかもしれないという期待を込めて、「やってみる?」と差し出すと、薬研は少し考えてから「いや、いい」と首を振った。


「頭脳労働はあんまり得意じゃねぇしな。…………俺は、こうやって、大将が見せてくれりゃあいいよ」


 …………そうか、残念だけど、こうやって楽しんでくれるならそれもありか。そう納得した私が、定期的に見物人の薬研と並んでパズルゲームに興じるようになるわけだが、それはもうちょっと先の話である。



 

彼が見せてほしいもの





審神者である彼女が、薬研の見せてほしいものがゲームではないと気付く事が出来るかどうかは、不明。