「「…………」」


白澤が音も立てずに巨木から飛び降りるのと、鬼灯がの様子を聞いて農園の奥までやってきたのは何の因果かほぼ同時であり、呼吸を止めて一秒、(お互いに)真剣な目をした後、


「ふんッ」ぶぉんっドゴォォン「だぁあっぶねぇぇぇぇ!!」


鬼灯が顔面めがけて横薙ぎにした金棒を紙一重で避ける白澤の図が出来上がった。金棒は全く罪のない巨木の幹に突き刺さり、その破砕音で眠っていた筈のシロが「ピギャ!?」と飛び退いた。
そのおかげで枕を失ったが結構な勢いで頭を地面に打ち付けたが、「お゛み゛ょんっ」とよくわからない奇声を上げただけで何もなかったように健やかな眠りに戻っていくあたり、よっぽど疲れていたのか身体的に鈍感なのか精神的にも鈍感なのか、まったくもって不明である。
とてつもなく嫌そうな顔で舌打ちする鬼灯と、それに対して顔をしかめて歯をむき出しにする白澤という構図は、嫌な予感がして鬼灯の後を追ってきた桃太郎にとって割と日常かつあまりお目にかかりたくない惨状である。
わかりきってはいるがあえてこの二人を評するなら、犬猿の仲、またはハブとマングース、或いは水と油、もしくはジャ○アンツファンとタイ○ースファン。正直叫んで逃げたい。
さてそんな不倶戴天同士と言える鬼灯と白澤だが、その目的は両者ともに大木の根元でスヨスヨと眠り続けるだった。なお、位置関係は以下のとおり。



 \クピー/
木       白澤  鬼灯      桃太郎と逃げてきたシロ



「…………そこをどけ、珍獣」
「珍獣言うな朴念仁」


鬼灯が一歩足を進めるごとに白澤が後ろに―――に近づくように一歩下がる。
それに気づいた鬼灯が迂回するような足取りで白澤を追い詰めにかかった。ただ愚直に追い込んだだけでは白澤がに近づくだけの口実を作ってしまう。鬼神はそれだけは避けたいのだろう。白澤もそれをわかって、敢えて鬼灯にじりじりと追いつかれることを選び、それにまた気づいた鬼灯は進路をじわじわと調整していく。


じわじわじりじり。
じわじわじりじり。
じわじわじりじり。
じわじわじりじり。


…………調整に調整を重ねていく男たちの姿が、何故か少しずつ目標から遠ざかっていき、桃太郎が我に返った時には最早二人の影すらこの場に残っていなかった。


「え、ええー…………何このオチ…………」
「なんかよくわかんないけどまあいいんじゃない?」


桃太郎の背後からひょっこり顔を出したシロに、「いいのかねぇ」と首をひねったところに、「おはようございますぅぅ……」と寝ぼけたが起き上がってきた。


「あぁー…すみませんぐっすり寝ちゃって。…………うんん、なんか物理的に頭痛い……」
「お、おはようございますさん……」


なんだってこのタイミングで起きるんだこの人、そうは思ったものの眠っていた彼女は何も知らないのだ。多分本当に偶然のタイミングだったのだろう。そう結論づけて、桃太郎は体を起こしただけのの手を取り立ち上がらせる。


「疲れ、取れましたか?」
「はい、充分。ご心配おかけしました、……ありがとうございます、桃太郎さん、シロさん」


照れくさそうに、そして嬉しそうに笑うを見て、桃太郎は良かったと素直に思った。
(それじゃあ、昼飯行きましょうか。シロも一緒に行こうぜ)(うん!!)