「さて、あとはさんですね。お待たせしました」
「…………はい」


正直、個人的な話と言われた時点でろくな事にならないという確信を持っていたので、どうしても及び腰になるである。だが、一応業務中だ。あんまりなことはされまい(と信じたい)。


「とりあえず、上を向いて下さい、思いっきり」
「はい? はっ、はい、わかりました! …………こ、こうですか?」


言われるがままに上を向いたら、「はいではそのまま」静止するように命じられて、何だこれ何がしたいんだと疑問に思った瞬間、影が降ってきた。恐る恐る目を動かすと、正視できないほどに機嫌の悪そうな鬼灯が居て、思わずあげかけた悲鳴を 必死に飲み込む。



「…………(腹いせにあの亡者を思う存分呵責してきましたが、)こうして見るとまだまだむかついてきますね……」


(!?)
何の話だ!! なんかやらかしたのか私は!! あからさまに不機嫌な低音に、マナーモード並にブルブルしそうな体を気合で食い止める。
何をむかつかれているのかわからないが、とにかく微妙に命の危機を感じて、勝手に冷や汗が噴き出してきた。
とにかく真相究明しないと弁解も謝罪も出来ない。このまま朽ち果てるわけにはいかぬのだ、とよくわからない理由で勇気を振り絞る。


「あの、鬼灯様? 私、一体何をやらかしたんでしょうか……」
「ん? ああ、そうですね、さんは特に何もしていませんよ」
「え、じゃあ……」
「何もしてないんですがとりあえずむかつきました」
「何でですかぁぁぁぁぁ!!」

鬼灯様理不尽!! 思わず突っ込んだ。






*** *** ***






叫ぶを華麗にスルーしたまま、鬼灯はそこをずっと見つめていた。
晒された白い喉に赤くなった痣の跡。その鮮やかなコントラストはどことなく艶かしさを醸し出しているのだが、如何せんこれはが害された証拠であり、自分以外の男が触れた証だ。いやはや、実にムカつく。
この痣を見ると、何かに触れるのを先越されたようで非常に腹立たしい。腹立たしかったので、


「聞いてますか、ちょっと、鬼灯様ったら!!」
「はいはい聞いてますよちょっと動かないで下さい」


喉を見せたまま怒りだしたを適当に宥めながら、赤く染まった喉に、自分を上書きすることにした。


―――がぶ。


「びゃぅあ!?」


赤くなった喉元に噛み付いた途端、が悲鳴を上げた。
が、鬼灯はそれを無視して二度三度場所を変えて噛みなおす。
がぶ、かぷ。牙を立てないように、甘く、優しく。ついでに吸ってみる。顔を真っ赤に染めたの体が面白いくらいに動かなくなったのをいい事に、小袖の襟を軽く引っ張って、鎖骨のそばにも吸い付いてみたりして。
跡が綺麗についたのを見て、鬼灯の機嫌はどんどん上昇していった。
時折が漏らす「んゃっ」とか「あ」とか微かな喘ぎがこれまた鬼灯を煽るので、ついつい興が乗って思うがままに跡を付けていく。もひとつおまけとばかりに、尖った耳の先にもくちづけてみたり、要するに鬼灯は満足するまで憂さ晴らしとマーキングに勤しんだのだ。




解放したあとへなへなと座り込んでしまったに歯型とキスマークを付けたと教えたら、「せせせせせセクハラじゃないですかーやだー!!」と喉を抑えて執務室を飛び出して行ってしまった。
その数十分後、スカーフを首に巻いたが顔を真赤にしていたという報告を受け、鬼灯は機嫌よく、ご馳走様でした、と両手を合わせておいた。