「もう近寄らないで下さい」幾分硬い声が耳を打つ。顔をあげる事なく、が告げた。「私は、鬼灯様が嫌いです」それだけ言い捨てて踵を返すを見送りながら、鬼灯は目を細めて思う。髪の間から覗く耳を真っ赤にしておいて、恋を滲ませた瞳を揺らせておいて、騙せると思うならとんだ自惚れですね、と。


「ねえねえちゃん僕と新婚さんごっこしようか、はい『おかえりなさいア・ナ・タ』から!」「は、え、ちょ」「『ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?』はい続けてどうぞ」「は、白澤様ってちょっ、や、あのっ何で私押し倒されて」「いーからいーから」 金棒が白澤の顔にめり込む二秒前。


「何度も繰り返される一生のお願い程、軽い物はありませんね。例えば小さな子供が親に欲しい物を買って貰いたい時や、女性が男に物を強請る時に軽く。それほど重みないスポンジと変わりません。それを踏まえて、」私を見下ろし鬼灯様が言う。「私の、一度きりの一生のお願いです。貴女を、下さい」


引っ張られるように抱き寄せられて、神獣の意外な逞しさに自分の胸の奥が激しく動き出した。「もう、危ないなぁ……ちゃん大丈夫? 怪我ない?」「は……、い、大丈夫です、ありがとう御座います白澤様……」浮かび上がるのを忘れた朧車タクシーに轢かれかけた所を助けて貰った、だけで、こんな。


「も、仕事中です……!」戯れにつけた首元の赤い跡を押さえたの抗議を、鬼灯はさして気にすることもなく息抜きですよと嘯く。途端に目を据わらせた可愛い部下が、それなら私も息抜きですと鬼灯の胸ぐらを引っ張って、「……さん、自分でやっといて照れないで下さい」男の首にも赤い跡。


賓客である傾国の美女が上司の腕に胸を押し付けながらワインのグラスを煽っていた。押し付けられた当の本人は平然としていたけれど、見ていたこっちのずっと奥のほうでチリリと燻りに似た苛立ちが走る。 そんな風に思う資格なんてないのに、自分へのノイズが煩わしかった。


マキミキのライブチケットが当たる!テレビの放送を見て、さんが目玉焼きを取り落とす。「お、応募しなきゃ」と慌てた様子を見るに、どうやら彼女はマキミキのファンらしい。お茶を啜りながら送られてきたチケットを差し出すと感極まったさんに抱き締められ、思わずGJですマキさんと感謝した。


ようやく彼女が自分の腕におさまったと、鬼灯は眠る愛しい部下に腕枕をしながら思う。百年かかった、に余計な傷をつけた、いけすかない珍獣が横からしゃしゃり出てきたりした、……色々あった。だからこそ強く思う。は誰にも渡さないと。百年かけて手に入れた大切な人を抱いて、鬼灯は目を閉じた。


白澤様が閻魔様の一日補佐をされる。ということで、私は一日だけ白澤様の秘書になるらしい。鬼灯様は白澤様の仕事をするという、謎の入れ替わりキャンペーンで、私を連れていけず物凄く悔しそうな顔をしていた。仕事が片付くなら入れ替わりでも何でもいいですがとりあえずセクハラ禁止です白澤様。


烏頭さんと蓬さんが、鬼灯様を飛び越えて秘書殿と昔馴染みだったら大変面白い予感 「あれ、烏頭君と蓬君だ。久しぶり」 「お、じゃんか今度飲むか」 「是非!じゃあまた」 「…………お知り合いで?」 「昔馴染みだけど…」 「…………」(無言の圧力) 「面倒な奴だなお前…」


現在 「おーじゃねーか」 「あ、烏頭く「はいそこまで烏頭さんには近づかないように」ぐぇっ」 「うわーお前、案の定鬼灯に捕まったのかよ」 「…捕まったつもりはないんだけど」 「何を仰る、亀甲縛りで捕まえたじゃないですか」 「 」 「誤解を与える物言いをしないで下さい鬼灯様!!」


(なんかの診断系の奴)
キスして欲しい。強請ると、深々とため息をつかれ、触れるだけの口づけが降ってくる。何故ため息?嫌ならしなくても結構でしたのに。口を尖らせて聞くと、「普段そんな事いわない貴女に急に口付けをねだられて緊張しない訳がないでしょう。いつの間に私を悩殺するようになったんです」…深呼吸ですか。


「離してください白澤様」「えーいいじゃんいいじゃん僕とゆっくり話そうよ!」「仕事中ですから……」「平気平気、だかr(ゴシャ)「全く、相変わらず害獣やってますね偶蹄類は」「……んのっ、一本角ォォ!」 私、そろそろこのループから抜け出したい。(秘書の日記より)


「それでは唐瓜さんを始めとした一班は焦熱地獄へ行ってください、貴方がたは大叫喚地獄でサポートを」「「わかりました」」「それからさん」「はい」「愛してますよ」「はい……はぇっ!?」「「!!?」」「それからルリオさんは……」((今さらっと告白したぞこの人……))※獄卒一同心の声


私は、貴女を「お疲れ様でした鬼灯様。明日分のデータこちらに用意しましたのでのでよろしくお願いします」います「それでは、失礼します」 ――-完璧に取り繕った笑顔で、彼女は言葉を切り刻む。聞きたくないと拒む後ろ姿の、ただ赤く染まった耳だけが、鬼灯の希う声が届いた証だった。

(↑の秘書殿視点)
怖い、きっとバレてる。聞きたくないと願い、聞きたかったと喜ぶ相反した私の中を、あの目はきっと見透かしている。 「……諦めてください、私も諦めきれなくなるじゃないですか……」思わず吐き出した声には、濡れた色が混じっていた。

(↑の完結編?)
「…………といったあの頃の貴女も大層可愛らしいと思いますが」「やめてくださいしんでしまいます(精神的に恥ずかしすぎて)」「今の素直になった貴女も可愛いのでさっさと私に押し倒されろ」「やめてくださいしんでしまいます(肉体的に数日動けなくなるんです!)」


「白豚が以前やらかしましたね新婚ごっこ」ギロリと音がしそうな程鋭い目付きで見下ろされる。「全く、本物の夫を差し置いて何をしてるんだか」すみませんいつから私の夫になられたんですか鬼灯様。口に出して突っ込みたかったけど、布団に押し倒されている現状で言える程肝は据わってないのです。


「ねえ鬼灯様、私を笑って下さいな。百年貴方を拒み続けた私が、今になって貴方にすがり付きたくて仕方ないんです――どうか、私を身勝手な女だと笑って下さいませ」くしゃりと顔を歪めた彼女を懐に引き寄せる。「確かに笑い出したい気分ですよ」ただそれは、愛しい貴女を漸く己のものに出来た喜びに。


例えば、執務室の片隅を飾る一輪の花。例えば、大王の机にそっと置かれるおやつの皿。例えば、書類を山積みにした私の背後を過る控えめながらも甘く華やかな香り。それは長年求めていた彼女が己の傍に在る証。手を伸ばして容易に触れられる距離で、今彼女は笑う。悟られぬ程度の淡さで私は目を細めた。


(良い夫婦の日ネタ)
「現世では、11月22日はいい夫婦の日だそうですよ」「はぁ、そうなんですか?」「たまには私達も現世の語呂合わせに付き合ってみてもいいかもしれませんね」「いやお待ちください鬼灯様、私達夫婦ですらありませんg」「些細な問題ですよさぁいい夫婦らしくイチャイチャしましょうか今すぐ」


今は自由に、けれど私の目が届くところで、心身に受けた傷をゆっくりと癒して、治して貰おう。私を忘れず、じわじわと私に依存していくように、彼女をやんわりと追い詰める。たとえ今は私を忘れようとしていても、最後は私と共に在るように。そう在らねばならぬと目を眇めながら資料室の扉を開けた。


(18巻八寒の芸術から小ネタ。)
「もしくはなあ、お姉さんの裸婦像とかなら受けると思うよう」
春一さんが言い放った一言に唐瓜さんが体をびくつかせた。
春一さんの視線の先にいたのはお香ちゃんで、ああそれはなるほど色々複雑で、けれど誰かれ構わず晒すなんてもっての外、というモラル的な怒りもあるんだろうと思う。
「何で裸の必要があるんだよ!裸の!」
「裸はいいよう、裸最高」
噛み付く唐瓜さんを他所に、春一さんは裸になることを厭わないという主張に終始している。何だこりゃ。
唐瓜さんツッコミ頑張って、と心のなかでエールを送りながら、仕事に戻ろうとしたその刹那。
「なあお姉さん」
パシ、と腕を取られた。
たいへぇんとっても嫌な予感。
「お姉さんヌードモデルやってくれよう、あっちのお姉さんはこいつが許してくれなさそうだから頼むよう」
そう言われてもこっちも嫌だ。ぐいぐい迫ってくる春一さんとの距離の近さに眉をひそめながら、無理ですやりません脱ぎません、そう言ってやろうと口を開いたその瞬間。
ビュオォ。
豪速球の如く、鉄の金棒が春一さんと私の間を過ぎる。
ひっ、と体を仰け反らせた私の腹に毎度おなじみになってしまった直属の上司の腕が回された。
「申し訳ありませんが」そして続くバリトンボイスは非常に不機嫌かつ不満気で、
「この人の裸を見ていいのは私だけなので、お断りします」
「おう…お姉さん、鬼灯様のコレなのかよう……」
と言いつつ小指を立てる春一さんに、私は必死の形相で否定する。そういう関係じゃないしそもそも鬼灯様の前で脱ぎたいと思いませんから「脱ぎたいと思わない、じゃなくて脱がしますよ必ず」心読まないで!!!


カカポに色めき立つ鬼灯様と秘書殿の図
「カカポ!?カカポいるんですか!!?やだ見たい初江庁私も連れてって下さい!!」「いいですよ早速行きましょうあれはかなりのもっふもふですよ実に素晴らしいです!!」「行きましょう行きましょう早く早く!!」 「えっ、ええー何あの意気投合ぶり……」


せっかくなので鬼灯様に聞いてみます、もしも浮気したらどうs「浮気?私の目が黒いうちに出来るとでも?面白いこと抜かしますねやってみてご覧なさい。まぁ実際やろうもんなら二度と浮気できないように全力も以って呵責した後、相手はすり潰してから砲弾にして射出しますが」長い。

 

〜2015.6.23 @dd_sumicco