とユーリは傍から見てても真っ青を通り越して真っ白な顔色で、2階の共用スペースのテーブルに着いていた。
普段はお気楽なところが見える二人がこんな反応とは珍しい、と管理人の中年は顎をさする。
鼻をくすぐる匂いは香ばしく充分に食欲をそそるものであるのに、その香りをかいだ二人はますます血の気が引いていくばかりだ。
は全身の震えを隠せなくなっているし、ユーリに至っては既に涙目だった。
……何かとてつもなく凄いものを目にしている気がする。
レイヴンはいつもの笑顔の裏でそんなことに驚いてみたりもしたが、なぜだかその理由を聞くことは出来なかった。
いや何度か尋ねはしたのだ、尋ねたのだけれど、二人ともただぷるぷると首を振るだけで口を開こうとしない。
これじゃあちゃんを慰めてあげることも出来やしないなぁ。
どことなく困った風に、レイヴンはまた顎を摩った。
ピピピピピ、と色気のない電子音が鳴ったのはそのときだ。
が手にした携帯電話からだった。
途端にぱぁ、と笑顔になる、その隣で動揺を隠さないユーリ。


「も、もしもし! あ、リタ? ……うん、うん、わかった! それじゃ今から行くね!!」


電話を切るなり、賑やかな音を立てて席を立ち、共用スペースの奥で奮闘しているフレンの背中に向かってとても済まなそうに(しかし隠し切れない安堵感を持って)が声を掛けた。


「ごめんねフレン、ちょっと急用で友達に呼ばれちゃったから、ご飯いただけなくなっちゃった!」
「そうなのかい? ……残念だな」


暖簾をくぐって出てきたフレンが持つ耐熱皿の中には、焼き立てと思しき青白い物体がなんともいえない匂いを周囲に振りまいていた。それを目にした瞬間、レイヴンは嫌でも理解してしまったのだ。
理由を聞いても何も言わなかったのは、言えなかったからか、と。
そして今の自分の顔も、きっとユーリと同じように青ざめてるんだろうなぁ、とも。


その後、約一名を除くメゾン・ド・ヴェスペリアの関係者にひとつの不文律が成立した。




「フレン・シーフォを台所に立たせるな」