「荷物はこれで全部か?」
「んっと……うん、そろってます」


叔父であるデュークに聞かれて、は笑って頷いた。
両親を事故で亡くしてから見目麗しい叔父に引き取られ、数年の間二人で暮らしていたがこの度大学に通うにあたって自立することにした。
とは言え、ぶっきらぼうながらも優しい叔父が何かと心配しないわけがない。部屋を探すのに慣れていない姪の為に四方八方手を尽くしてくれたデュークには、感謝でいっぱいだ。
そして最終的に、デュークの知り合いが経営しているらしい学生向け賃貸マンションを紹介してくれたときは喜びとありがたさのあまりに子供っぽくも抱きついてしまい珍しく動揺した美しい叔父を目撃したことを、ほんの少し顔を赤らめつつ思い出しながら、はこれから住むことになるマンションを前に一人微笑んでいた。

メゾン・ド・ヴェスペリア。
通う大学から徒歩二十分、最寄の商店街から徒歩八分。ついでにデュークの家まで電車で四十分。
建物はほんの少しくすんだ白い四階建てで、外観こそ古いことは古いけれど、内見させてもらった限りでは綺麗に整ったいい部屋だった。家具や電化製品もついていたのは素直にポイントが高い。


「やーいらっしゃい! ちゃんだっけ? うんわーデュークの姪っ子だけあって美人さんねー! おっさんはここの管理人でレイヴnグボホぉおぶ」


マンション入り口でデュークと二人たたずんでいると、管理人室の扉がドバンと開いた。
そこから駆け寄ってきた無精ひげ面のやたらテンションの高い男性がに飛びついてこようとしたようだが、デュークの冷静な掌底で顔面を打ち据えられる。素人目から見てもスマッシュヒットだった。さぞ痛かろう。
ふごごごご、とのた打ち回る管理人と思しき男性をデュークは指差す。


「この男がここの管理人でレイヴンという。私の古い知人だ」
「は、はぁ」


叔父によるまさかのドつき漫才に目を白黒させながら、あいまいに頷く。あいたたた、と顔をさすりながら復活したレイヴンが「宜しくね」と手を差し出してきたのではとりあえず笑顔を作って握手した。