「ん……」

ぱちり、目が覚める。けれど意識はすっかりぼんやりとしていて、頭がなんだか働かない。
寝室は未だ夜の帳に包まれていて、どうやら起きるには大分早い時間に覚醒したようだった。
枕元に置いてあるはずのどてらをとろうと頭の上を探ろうとして、布団の外ににょきっと出した腕が変にヒヤリと冷えるのに気がつき、それから布団が普段の煎餅布団ではなくふんわりと薔薇の香りがする羽毛布団であることを思い出し、自分のものではない腕を枕にしているのに気づき。
そしてようやく、自分の背後にその腕の主が眠っていることに思い出し。


(う、わあああっ)


眠りにつく前の甘ったるくも衝撃的な時間を思い出すのに至り、の頭は完全に覚醒した。

(腕が冷えるはずですよ、私今何も着てない……!)

火が出そうな程熱い頬を両手で押さえ、恥ずかしさのあまり体ごと布団の中で丸まろうとして下腹部に鈍い痛みを感じ、またもや悶絶する羽目になった。
ひとしきり身悶えた後、自分の頭の下に敷かれた腕に恐る恐る触れてみる。
意識が落ちる前には既にこの状態で、朝にはまだ早いが随分と長いこと枕にしてしまっているのは疑いようがなかった。腕は痺れていないだろうか。かなり長時間このままだったし、痺れていないわけがない。
嬉しいやら申し訳ないやら、気持ちが綯い交ぜになりながらは隣で眠る人を起こさないようにゆっくりと起き上がろうとして、無防備な腰を抱き寄せられて小さく悲鳴をあげた。

「こら、どこ行く気だよ?」

普段より低く掠れた声で腕の主……アーサーがの背中に張り付く。
アーサーの裸の胸が同じく裸の背中にひたりとくっついて、その温もりと生々しさには顔を赤くして口を噤んでしまう。
軍服やスーツ姿、私服のアーサーは割とスマートな印象だったのに、昨夜翻弄されながら垣間見たアーサーの体は思っていた以上に逞しかった……というところまで思い至って、また余計なあれこれを思い出しは小さな声で「ぁぅぁぅ」と呻いた。
それを見て笑いが堪えきれなくなったのか、アーサーが喉の奥で笑いながら。

「あーもう、は可愛すぎる」

後頭部にちゅ、とキスをしての体を反転させた。真っ赤になったままのは、しかしほんの少し隈を作ったアーサーと目が合うと、きょとんとした表情でアーサーの頬に手を伸ばす。

「アーサーさん、寝ていらっしゃらないのですか?」
「あ? あぁ、まぁな」
「私に腕枕をして下さっていたせいでしょうか……」
「違ぇよ、腕は関係ねぇ。ただな、なんつーか」

その先を口ごもり、アーサーは顔を赤くして視線を逸らす。よくわからないが、多分あまり聞かれたくなかったのだろうとが一人納得しかけたその矢先

「ひたってたんだよ、………こうやってが俺の腕の中にいるとか、ほんとに夢みたいでさ」



同盟組む前にちらっと会った時から一目惚れだったんだ、ずっとお前だけを思ってた、けど色々あったし酷いこともした、だからこの思いは叶わねぇと諦めてた、でもが俺を愛してくれて、今こうやってお前の温もりを直に感じることが出来てすごく嬉しいのに、嬉しすぎてこれが都合の良すぎる夢なんじゃないかって不安になって。



恥ずかしげに歯切れ悪くぼそぼそ続く言葉に、は言い様のない胸の疼きを覚えた。恥も忘れて両腕を何とか伸ばしアーサーの首に巻きつける。

「夢なんかじゃありません、私は貴方のすぐ隣にいて、貴方とこうして抱き合っています……アーサーさんにそれほどまでに思われていて、私がどれだけ喜んでいるのかわかりませんか?」

「お慕いしています、アーサーさん」

そう口にして、翡翠の瞳を間近にして笑み、衝動的に軽く口付ける。
途端、力強く抱きしめられ、アーサーの額が肩口に触れた。金の髪のサラサラした感触にくすぐったさを覚えて小さく身を捩るけれど、アーサーの腕がそれを許してくれない。

「アーサーさん、髪の毛くすぐったい……」
「悪い、我慢してくれ。俺も我慢してて今それどころじゃなくて……嬉しすぎて暴走しちまいそうだ」

何かを堪えるようなアーサーの声。ブロンドの隙間から見える耳が真っ赤に染まっていた。
きっとこういうことに関しては初心な自分のために、アーサーは必死に己を律しようとしているのだろう。それが手に取るようにわかり、はまた胸の奥が熱くなる。
そんな不器用な愛情が嬉しい。それに自分も全力で応えたい。アーサーの赤くなっている耳に唇を寄せて、は小さく囁きかける。

「……我慢しないでください、暴走してください。どんなアーサーさんでも私の愛する貴方ですもの、全て受け止められるから、どうか」



私を愛して下さい



そう言い終わると同時に愛欲に濡れてぎらついた目をしたアーサーに息をも奪われる深いキスをされて、さあこの人の愛情にまた翻弄されてしまいましょうかと、はひっそりと微笑んだ。










 

それもあいゆえに。
 

 



夜が明けるまでたくさんたくさん愛されて疲れきった私が
明るくなってから今度こそ目を覚ますと、先に起きていたのか
酷く照れくさそうなそしてそれ以上に幸せそうにはにかんだ笑顔のアーサーさんが
スペシャルブレンドだと言って私の好みにぴったりあった紅茶を淹れてベッドサイドまで来てくれました。
そのやわらかな美味しさとアーサーさんの優しい思いが私の心を満たしていくのです。

大好きです、聞こえないくらいの声で呟いたそれがしっかりとアーサーさんの耳に届いて
俺もだ、と甘いキスをプレゼントされるのはほんの数秒後。
 

 

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若干乙男になりました。
スペシャルブレンドはきっと夜に無茶したお詫びに違いない。