まずは言い訳させてくれ。 そろそろトマトの収穫時期が来て、今年はロヴィーノが手伝いに来れへんみたいやって電話で話をしたら、ちゃん、「なら私お手伝いに伺いますね」って言うてくれたやん。 それがめっちゃ嬉しゅうてなぁ、親分いつも以上に張り切ったわけや。 しかもちゃんわざわざ手作りのお弁当持って来てくれたわけで。 そのお弁当がむっちゃ楽しみで、午前中の仕事がはかどることはかどること。 汗拭きながら顔を上げれば、太陽みたいに眩しいちゃんの笑顔とかち合って、中腰姿勢のせいで痛む腰もぱーっと治ってしまうようやった。 お昼も過ぎて、あらかた収穫も終わった頃になって食べたちゃんお手製のお弁当はホンマうまかったよ。 俺にとってはどんな豪勢なご馳走よりも、ちゃんの作ってくれたおむすびの列とふんわりした卵焼きと狐色のから揚げとちょこんと盛られたポテトサラダが嬉しくてうまくって幸せやった。 んで、たくさん採れた瑞々しいトマトの山と程よい満足感と満腹感と、そして隣に座ってにこにこ笑うちゃんと。 幸せカルテットやんなぁ、とか思ってたら何となく幸せクインテットにしとうなってな。 とまどうちゃんの声を無視して、俺はちゃんの膝に頭を乗せて。 そう、膝枕っちゅーやつやな。 「え、ええええ」 「ほなおやすみちゃん」 「あ、アントーニョさ…、っもう……」 一方的に挨拶して目を閉じる俺を気遣ってか、大声をあげかけたちゃんは慌てて口をつぐんだ。 起こしたら悪いって思ってくれたんやろなぁ。 あくまで目を閉じただけの俺が聞いてるとは思いもしないんやろけど、最初はぶつぶつと不満げに何事かを呟いとった。 けれど、そのうちに。 置き場なく宙を彷徨っていた手が、こわごわな感じで俺の頭に触れて。 その手がやがてゆっくりと俺の髪を優しく梳きはじめた。 柔らかな手つきがもたらすその感覚は、ちゃんの膝枕を堪能しとった俺に睡魔を呼び起こさせて、ほんまはただの悪戯やったのに、気づけばもうすぐ夢の中ってところまでいかされてて。 大好きなちゃんの膝枕と手の暖かさにいよいよもって意識が落ちる、その寸前。 「大好きです、アントーニョさん」 極々小さな声。 俺を起こさんように案じてくれたんやろう、殆ど掠れて発音らしい発音ではなかったのに、恐ろしいまでに甘い響きを含ませたその言葉だけはしっかり耳に届いた。 その瞬間、眠気の一切合財が吹っ飛んだ。飛び起きなかったんが奇跡なくらいやった。 今の言葉は都合のいい夢なんちゃうやろか、昔に出会ってから今まで、お互いそれっぽい雰囲気がなかったわけやない、せやけどちゃんも俺も肝心なところで「好き」って言葉を出せへんかったから。 それなのに、それなのにやで? 今はっきり、ちゃんは俺の事を大好きって言うてくれた。 お互いがお互いに恋しているのをうすうす感じていながら、口に出せなかったことでどうしても踏ん切りつかなかった最後の砦を―――大きく崩したのはちゃんやったんや。 ―――女の子に言われてようやく踏み切る男ってのも恥ずかしいモンではある。 だけど、そんな恥ずかしさよりちゃんが愛おしくて、俺は今度こそ飛び起きた。 「俺もずっと大好きやで」 「え、あ、嘘」 聞かれてた、なんて欠片も思ってなかったらしいちゃんの、綺麗に真っ赤に染まった泣きそうな顔に唇を寄せる。 ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てると「ひゃ、わ」と小さな悲鳴があがって、けれどこうやって触れ合えることがホンマに嬉しゅうて幸せで、どんどん調子に乗っていく自分がわかっとったのにあえてストッパーをかけへんかった。 「アントーニョさ、ん、ちょっと、」 戸惑ったちゃんの声も、今はスルーや。 両腕でしっかり閉じ込めながら、俺はゆっくりちゃんを押し倒し――― たら、都合がついて様子を見に来たらしいロヴィーノに見つかって後頭部に踵落としをかまされて、悶絶。 その間に弟分に助けられたちゃんが半泣きでお怒りになっとるっちゅう現在。 「だからな、ちゃんが可愛いせいでもあんねんで? そりゃチュッとやってしまいたくもなるやんかー」 「チュッ、で済まなかったじゃないですか!! いきなりあんなことするなんて聞いてませんもん!」 「そら言うてなかったしなぁ、まま、怒らんといてーなちゃん。そんな顔で怒っても怖くなんてあらへんし、むしろ逆に……あ痛、何すんねんロヴィーノ」 「この変態、をそんな目で見んな」 ―――ってな具合で同じようにぽこぽこ怒っとるロヴィーノを盾にしたちゃんにお説教されとるけど、それすらも愛おしゅうてかなわんなんて、何て幸せなんやろうなぁ。 Happy sextet
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