「この国でのクリスマスって言えば、恋人と過ごすのが定番、なんだっけ」


両手に乗った皿を、ことんと音を立てテーブルに並べながらフランシスさんが思い出したように呟いた。


「あはは……企業のあれこれに乗せられたのか、ある意味時代の流れなのかはちょっとわからないんですが、そうなっちゃいましたねぇ」


多神教ゆえの展開でもあるかなぁ、等と苦笑するしかない私もフランシスさんに続いて料理が盛られたお皿をテーブルに載せてゆく。


「まぁ、それでも最近はそれぞれ家族で過ごすことが多くなったようですけどねぇ。……お年頃の男女二人きりなら恋人同士っていうのはほぼそうなんじゃないかと」
「へぇー」


今日のために買っておいたバカラのシャンパングラスを二つ、これもやっぱりテーブルに並べて、後はフランシスさんがお手製ケーキを持ってきてとりあえず用意は終わり。


料理が得意だという彼の、見た目にも美しい手料理が美味しそうな香りを振りまいて早く食べてと誘われているようで、私がうっとりと見つめていると。正面から小さく噴出す音がして、思わず赤面する。


「す、みません、意地汚いところお見せしちゃって」
「いや、そんなことないない。むしろそんなに期待して貰えたのがお兄さん嬉しいよ」


自信作だからさっそく食べちゃおうか、とシャンパンのコルクを抜き―――その仕草が男性に言うのもなんだけれど、ものすごく綺麗で……見とれてしまったのは秘密だ―――、シャンパングラスに注ぎながらフランシスさんが笑った。










 

「メリークリスマス!」
「Joyeux Noël!」












一流のシェフが作ったんじゃないかってくらい、料理は美味しかった。シャンパンは口当たりがよくって、お酒が苦手なはずの私でもスイスイと空けてゆけた。ケーキなんてもう絶品過ぎて目が回りそうなくらい。
気持ちよく正気を保てる程度に酔いながら、流し台で食器を洗う。料理を作ってもらったのだからこれくらいはさせてくれ、と言ったけれどフランシスさんが頑として譲ってくれなかったので折衷案を提示し、採用してもらった結果二人仲良く並んで泡だらけになった食器達と戦っている。ちなみに私が洗う担当、フランシスさんは濯ぎ担当だ。


「あ、そうだ……ねぇ? お兄さん、ちゃんにひとつ聞きたいことがあるんだけどさ、いいかな」
「どーぞどーぞー」


その声が不思議に真剣な色を帯びていたのにも気づかず、酔って鈍った私は軽く頷いた。そんな私を見て、ふふ、とほほえましげにフランシスさんは笑う。言ったことはないけれど、私はそんな風に笑う顔が凄く好きだ。


「あのさ、」


かちゃ、かちゃり、ざー。食器が触れ合ってたてる音と、お湯が流れる音が、少しの間だけこの空間を満たし。


「俺を今日。この国の今日、招待してくれたってことは、俺と君は恋人同士……ってことでいいのかな」


視線は流しに向いたまま、けれど意識を私に向けて、フランシスさんは静かに言った。
その問いに、私はそっと目を伏せて。


「そのつもりで、お呼びしましたから」
「そっか」


かちゃり、かちゃん、ざー。それきり何も言わずに片づけを続けていたこと、一分ちょっと。


「……あー、お兄さん湯気出そう……」
「……私も正直なところ顔が熱くて仕方ないです……」


お互いに真っ直ぐ顔を見れないぐらいに気恥ずかしい。さっきまでのほろ酔い気分は一瞬でどこかに飛んでいってしまった。頭の上からぷしゅー、なんて湯気が出ても今なら仕方ないと思った。それぐらい顔が熱い。それ以上に顔がにやにや緩んでしまうのが抑えられなくて、顔見られてなくて良かった、なんてホッとした。そしたら、ちらりと視界に入ったフランシスさんの耳が真っ赤に染まっていて、更なる気恥ずかしさと幸せが一気に胸を満たす。


「はぁ……もう、すっごい嬉しくて仕方ないよ。ちゃんは俺専用の幸せ発生装置なのかな?」


フランシスさんがそう笑って、直後。ぱしゃん、と音を立てて、手に持っていたスポンジが流しに落ちた。


「………Je veux embrasser l'enfer.……Et comment le mauvais?」


抱きしめられた耳元で、吐息のように囁かれたのはフランス語。意味を尋ねようとした言葉ごと唇を封じられて、何となく意味を悟り目を閉じた。











(私も丁度今、そう思ってたんです)


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フランス語にカーソルを載せると意味が出ます。ただしグーグル翻訳ですのでご了承くださいまし。