天国に来たのはこないだが初めてだから、もちろんこの光景も初めてのものだった。
一面に星、星、星。
宝石箱をひっくり返したような綺羅びやかさと、静謐な夜の空気が不思議と調和した、そんな夜の宙。
地面と夜空がやたら近くて距離感を失いそう。星の中に落ちていきそうで、少し怖いのに目が離せない。
それほどに、綺麗だ。


「ね、綺麗でしょ」


背中からかけられた楽しげな声に、私はただ頷くことしか出来なかった。


「すごい、ですね」
「気に入った?」
「はい、とても」


それはよかった、と白澤様が笑うのがわかる。
最初誘われた時に渋ったのが馬鹿らしく思うほど、綺麗で、言葉も出なくて。


いくら天国でも夜は冷えるからと神獣たるその人がそっと上掛けをかけてくれた。星に夢中になっていた私がそれが白澤様の白衣だと気づいたのは、染み込んだ薬草の匂いに気づいたからだ。


「あの白澤様、とても嬉しいのですけど、これでは白澤様がお寒いのでは……」


星から目を離し、白澤様を振り返る。「きにしないきにしない」と笑う白澤様の鼻の頭がじわりと赤く染まっていて、慌ててお返ししますと白衣をつき出した。


「駄目だよ、ちゃんの体が冷える。僕はこれでも神獣だからちょっとやそっとじゃ風邪なんて引かないよ」
「でも、それでもお寒いでしょう? 鼻の頭、赤くなってます」


手を伸ばして、白澤様の鼻をチョンとつつく。途端、白澤様はびっくりしたように目を丸くして、それからにっこりと笑って、鼻に触れたあと戻しかけていた手を握る。


「ん、いいこと思いついちゃった」


協力して、そう続いた言葉に返事をする間もなく体ごと白澤様に背を向けさせられた。疑問すら持つ時間も許されず、そのまま背中から抱き込まれて、言葉を失う。首だけ振り返ると、頬に少し冷たい唇が触れた。


「流石にこんな星空の下で野暮なことはするつもりないよ。安心して」


…………どうせするんなら、ちゃんが風邪引かないようにするし。白澤様の呟きに、思わず赤くなって目をそらした。