「ああっ、こんなとこにいたねちゃん! そんなかっこで……風邪ひくよー」 ぱたぱたぱた、と軽快な足音が近付いてくる。私の名前を呼ぶその声は、レイヴンさんのものだ。けれど、どうしても笑顔を作れないだろうと思うと、振り返ることすら出来なかった。 ただただ、凛々の明星が輝く満天の星空に目を馳せ、膝を抱えて地面に座り込んだまま、無言。 おっさん到着ぅー、と、直ぐ後ろに感じる、人の気配。それから、小さく息を呑む音、両方感じてるけれど、やっぱり、私は動けない。 「……ちゃん?」 「…………」 明るかった声がほんの少し低く、それから心配するような色になった。やさしいこの人に心配させてしまうのは凄く申し訳ないと思うのに、今は、どうしても。俯いて、膝に顔を埋めながら、謝るしか出来ない。 「ごめんなさい…今、どうにも笑えなくって」 「……」 はぁ、とレイヴンさんが溜息をついた。それから、どさり、と背後から音がして。 「よいしょっと」 「……え、ちょっ、レイヴンさ…」 紫色の生地が私の体を包みこむ。少しごつめの男の人の手が、膝を抱える手をやわらかく包んで、じわりと暖かさを分け与えてきた。混乱する中、背中に当たる暖かいものが男の人の胸板とようやくわかって、それで私の背後に座り込んだレイヴンさんに後ろから抱きしめられたのだと気付いた。 「あのっ、レイヴンさん、」 「んー? いいのよ気にしないで? おっさんの存在なんてないものと思って好きなだけ泣いちゃいなさいな」 無茶を言う。無理です、私は平気だから、しどろもどろの言い訳を口にしながら、どうにか離してもらおうともがいていると、急に強く抱きしめられた。 「」 「……っ」 耳元で、かすれた声で名前を呼ばれて、耳たぶに触れる熱い温もりはレイヴンさんの唇で、 「俺がいるときぐらいは、素直になっていい。……ほら、無理して笑おうとしないで、ね?」 ……ずるい、本当ずるい。抗えないって知ってて、いうんだもの。 |