「ほれ」
「あつっ」


背後からいきなり、ほっぺたへの熱攻撃を食らった。
びっくりして振り返る。濃紺の世界に溶け込むようないでたちの幼なじみが、缶コーヒーをはりつけてきたらしい。驚かさないでよ、と文句を言うと、「何度も呼びかけたんだけどな、全然反応しねえんだもん」と肩をすくめられる。


「……ごめん」
「いいよ、別に。……なぁ


となりいいか、と珍しく確認をしてくるユーリに、私はぎこちなく笑ってどうぞ、と促した。少しだけ腰を移動させて、ユーリのスペースを作ると、サンキュとお礼が返って来て、軽くも重くもない音を立てて、ユーリはすぐ傍に座り込む。温もりが近くなって、何だか胸の奥がぼうっとなった。何故かユーリを見れる気がしなくって、それまでのように夜空を見上げる。町の明かりで微かに白んだ夜空だけれど、星はちらちらと瞬いていて、不思議と飽きずに見続けていた。
そんな私に、ユーリは呆れたのか、小さい溜息と共にさっき頬につけてきた缶コーヒーをす、と私の手に乗せた。


、お前冷えすぎ。これで少し体暖めとけ」

素直に受け取る。かじかんだ指先が缶の熱さにじんじんと痺れて、知れず溜息をついた。
それを見ていたらしいユーリの視線が夜空に向いたのを感じて、缶をぎゅっと握りこむ。

「さみぃな」
「……うん」

プルタブを引こうとする指が震えて、かちん、かちん、爪が鳴った。

「貸してみ」

返事を待たず、私の手から缶を抜き取る。すぐに、ぱか、と軽い音がして、香ばしい香りを漂わせて戻ってきた。
一口、含む。
仄かに甘い味が、体の中に染み込んで、お腹の奥と胸の奥が、暖まるのを感じた。指先だけじゃなく、ぐしゃぐしゃに絡まった気持ちも、ゆるゆる解けるような、そんな、感じが、


「……この寒空んなか、わざわざマンションの屋上にきて泣くなよ。……いつでも歓迎してやるから、俺の腕の中で泣きゃいいじゃねーか」


無言でぼろぼろと涙を流し始めた私の肩を、ユーリの腕が引き寄せて抱きしめた。